海の記憶

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その風景はたいそう暖かかった。そのように感じた。

海、独特の臭い。それは打ち上げられた海藻の腐敗臭。 それを包み込むように広がる風景。 長目半島、楠屋の近く、津久見市内から車で20分、海はザワメイテいた。 それは、まもなく降りてくるだろう雨を待っている。そのように感じた。

僕は黙ってそこに居たし、見えるもの全ても、同じように押し黙ったままそこにいた。 埋葬に向かう葬列の時間。そのように感じた。 ただ一片の風景。それはあくまでも薄っぺらのもので、 記憶という加工装置の中に押し詰められ、時間によって熟成させられる。 その時になって、その薄っぺらな一片の風景は、例えばペルシア絨毯のように 厚みを増して目と後頭部の間辺りに見えてくる。そのように考えた。

その風景をただ見つめていた。 そうしている間に僕は、もっと昔の海の想い出なんかを思い出していた。 こんな感じで、この風景もきっと、どこかで思い出すんだろう。そう思った。

(9月29日)

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